診療案内:人工透析

間欠的血液ろ過透析(I-HDF)とは?仕組みと効果をわかりやすく解説

間欠的血液ろ過透析 (I-HDF)
この記事の
監修・執筆

櫻林 耐 院長

日本腎臓学会認定 腎臓専門医 / 日本循環器学会認定 循環器専門医

「透析中に血圧が下がって気分が悪くなってしまう」「治療の後半になると足がつってしまい、本当につらい」。
ご自身で「I-HDF」や「逆濾過」について調べても、専門用語ばかりで「結局、自分にはどの治療が合っているの?」と、さらに不安になってしまうこともあるのではないでしょうか。

この記事では、腎臓専門医が、I-HDF(間欠的血液ろ過透析)の仕組みから血圧安定の理由、足のつり予防の効果まで、わかりやすくお伝えします。

  • 30分ごとに透析液を自動で補充し、膜の目詰まりを防いで高い浄化効率を維持する日本独自の技術
  • 標準的な透析と比べ、透析中の血圧低下や足のつり、だるさを約18%減少させる臨床効果がある
  • 血圧低下や足のつり、冷感に悩む患者様に適しており、体への負担を抑えて安全に透析を継続できる

I-HDFは日本で開発・普及した透析療法

I-HDF(Intermittent Infusion Hemodiafiltration:間欠的補充型血液透析ろ過)は、日本で開発・普及した透析療法です。

通常の血液透析(HD)に「間欠的な補液」という操作を加えることで、中分子・大分子の老廃物を効率よく除去できるよう改良されています。

HD・HDF・I-HDFの位置関係

血液透析(HD)や血液ろ過透析(HDF)と比較した、I-HDFの主な特徴は以下のとおりです。

治療法 I-HDF(間欠的血液ろ過透析) HDF(血液ろ過透析) HD(血液透析)
仕組みの特徴 拡散+間欠的な少量補液 拡散+大量の補液による対流 拡散のみで老廃物を除去
補液方法 間欠的に少量補液 持続的に大量補液 なし
専用補液回路 不要 必要 不要

HDFが専用の補液回路および大量の補液を必要とするのに対し、I-HDFは透析装置に内蔵された逆濾過(バックフィルトレーション)の機能を利用します。

逆濾過とは、透析膜を通じて透析液を血液側に一時的に逆流させる仕組みです。

I-HDF(間欠的血液透析濾過)とは、専用回路を追加しなくてよいため、設備面のハードルが比較的低いという特徴があります。


膜の目詰まりを間欠的な逆流でリセットする仕組み

I-HDFの効果を理解するために、まず透析膜の内側で何が起きているかを見ていきましょう。

透析治療が進むにつれて、透析膜の血液側には老廃物のタンパク質が積み重なっていきます。これを濃度分極層と呼びます。

たとえるなら、コーヒーフィルターに粉が目詰まりしていく状態です。フィルターが詰まるとコーヒーが落ちにくくなるように、濃度分極層が厚くなると老廃物の通過効率が下がります。

さらに重度になると、タンパク質が膜の孔(あな)に入り込むファウリング(膜汚染)が起こり、大分子老廃物の除去効率が治療後半にかけて著しく低下します。

間欠的な補液による膜洗浄のリセット効果

透析膜の浄化性能を最大限に引き出し、かつ持続させるためには、膜表面の「目詰まり」をいかに防ぐかが重要です。I-HDF特有の膜洗浄メカニズムを整理すると以下のようになります。

現象説明I-HDFによる対処
濃度分極層の形成治療が進むにつれ膜表面にタンパク質が堆積間欠的な逆流で定期的に洗い流す
ファウリング(膜汚染)タンパク質が膜孔に詰まり除去効率が低下洗浄効果でファウリングを抑制
大分子除去の低下治療後半にα1-MGなどの除去が落ちる後半まで除去効率が維持される

このように、30分ごとに繰り返される「リセット」によって、膜が汚れて性能が落ちるのを防ぎ、きれいな状態を保つことができます。

体に溜まった「抜きにくい汚れ」も、治療の終わりまでしっかり取り除き続けられるのが、I-HDFの大きな強みです。

透析中の血圧低下(IDH)や足のつりへの効果

透析中に血圧が急に下がる現象はIDH(透析低血圧)と呼ばれており、除水によって血液中の水分が減ると、血管内のボリュームが不足することが主な原因です。

重症化すると除水の中断や昇圧剤の使用が必要になることもありますが、I-HDFはこの血圧低下を抑制する効果が臨床的に認められています。

クロスオーバー試験によるエビデンス

日本透析医会が公表した臨床データ(クロスオーバー試験)によると、I-HDFは標準的な血液透析(HD)と比較して、IDH(透析低血圧)への処置件数(除水の中断や昇圧剤の使用など)を約18%減少させたという結果が出ています。

これは、血圧低下に悩む患者様にとって、治療の安全性が向上するだけでなく、透析中や透析後に「体がとても楽に感じられる」という、はっきりとしたメリットと言えます。

血圧が安定しやすくなるメカニズム

なぜI-HDFを行うと血圧が安定しやすくなるのでしょうか。それには、以下のような血管内のボリューム管理と自律神経への影響という2つの側面が関係しています。

① プラズマリフィリング(血漿再充満)の促進
30分おきに少しずつ水分(補液)を足すことで、血管から急激に水分がなくなるのを防ぎます。これにより、血管の外にある余分な水分がスムーズに血管内に戻るようになり、血圧が下がりにくくなります。
② 血管拡張物質の効率的な除去
透析中には、血管を広げて血圧を下げる働きを持つアデノシンなどの物質が体内に蓄積することがあります。I-HDFの対流効果(補液による引き込み)によってこれらの物質が効率よく除去されるため、不適切な血管拡張が抑えられ、血圧が保たれやすくなります。

これらのメカニズムが複合的に働くことで、従来のHDでは血圧が維持できなかった「透析困難症」の方でも、より安定した状態で治療を継続できる可能性が高まります。

足のつりや冷感への改善期待

透析治療の後半に起こりやすい「足のつり(有痛性筋痙攣)」や「手足の冷感」は、急激な除水による末梢血流の低下や、電解質の急激な変動が主な原因とされています。

I-HDFによる間欠的な補液は、末梢血管の緊張を和らげ、血液の循環動態を安定させることで、これらの症状を緩和する効果が期待できます。

特に、通常の透析では除水速度を下げざるを得なかった方でも、I-HDFに切り替えることで末梢循環が維持され、最後まで計画通りの除水が可能になるケースもあります。

「補液」で血液量を一時的に増やすことで、治療後半の血流不足を補い、つらさを軽減します。

30分ごとに補液を補充する治療の流れ

I-HDFの1回の治療時間は、通常の血液透析(HD)と同様に約4時間です。治療中の患者様の感覚や流れは以下のとおりです。

時間帯体の状態・患者の感覚
開始〜30分通常のHDと同じ立ち上がり
30分ごと(補液タイミング)自動で少量の水分を補給。痛みはなし
治療の後半(2〜4時間)膜のリセット効果で老廃物の除去効率を維持
治療終了後血圧が安定し、治療全体がスムーズに終了

I-HDFの補液は装置が自動で行うため、患者様が特別な操作をする必要はありません。

水分を補充する際、点滴のように少し「スーッ」とする感覚があるかもしれませんが、痛みや不快感を感じることはほとんどありません。

HDFと比べると、I-HDFの補液は量が少なく間欠的です。そのため補液中の急激な血圧変動は比較 小さく、体への負担が少ないと考えられています。

どんな方にI-HDFの適応が検討されるのか

I-HDFは、特に以下のようなお悩みを持つ方に高い適応性があります。現在の透析治療で課題を感じている方は、一度検討してみる価値があります。

対象となる方期待される効果・メリット
血圧が下がりやすい方IDH(透析低血圧)の予防と血圧の安定化
足がつりやすい方末梢循環の改善による有痛性筋痙攣の緩和
手足が冷えやすい方末梢血流の促進による冷感の改善
高齢・心機能低下の方血圧変動を抑えた、より安全性の高い治療の実施
HDFを希望される方専用回路が不要なため、シンプルな設備で対流効果を享受

I-HDFは「血圧の安定」と「血の巡りの改善」を両立することで、これまでの透析では解決が難しかった「足のつり」や「気分の悪さ」を和らげます。

体への負担を抑えつつ、しっかりと老廃物を取り除けるため、特にご高齢の方や体力が心配な方にとって、非常に優しい治療法と言えます。

「自分にI-HDFが向いているかどうか」については、現在の透析データや身体状況を詳しく把握している、かかりつけの透析専門医または臨床工学技士にご相談ください。

安全を支える超純粋透析液

I-HDFでは逆濾過によって透析液が直接体内に入るため、水質管理が安全性の要となります。当院では、患者様が安心して治療を受けられるよう、万全の管理体制を整えています。

超純粋透析液(ウルトラピュア透析液)の重要性

補液として体内に入る透析液にエンドトキシンや生菌が含まれていると、微細な炎症や発熱、長期的には透析アミロイドーシスなどの合併症を引き起こすリスクがあります。

そのため、I-HDFにおいては日本透析医学会の自主基準よりもさらに厳しい基準を満たす超純粋透析液(ウルトラピュア透析液)の使用が義務付けられています。

当院では、高性能な除菌フィルターを多段設置し、定期的な水質検査を丁寧に行うことで、常に高い清浄度を維持しています。

症状や目的に合わせたHD・HDFとの使い分け

透析療法には複数の選択肢があり、それぞれに特徴があります。どの治療を選ぶかは、患者様の自覚症状や生活スタイル、そして「どのような生活を送りたいか」という希望を総合的に判断して決定します。

3治療法の比較表

血液透析(HD)、血液ろ過透析(HDF)、そしてI-HDFにはそれぞれに長所があります。以下の比較表は、治療法ごとの特性を整理したものです。

項目I-HDF(間欠的血液ろ過透析)HDF(血液ろ過透析)HD(血液透析)
主な除去機序拡散+間欠持続対流拡散+対流拡散
中大分子の除去治療後半まで維持良好やや不十分
補液方法30分ごとに少量補液持続的に大量補液なし
主な対象血圧低下や足のつりがある方より高い除去効率を求める方標準的な透析患者様
血圧安定効果特に期待できる期待できる標準的
専用補液回路不要(逆濾過を利用)必要不要

I-HDFは特に、高齢の方や心機能が低下しており、透析中の循環動態が不安定な患者様にとって、有力な選択肢となります。

一方で、より強力に特定の老廃物を除去したい場合にはHDFが選ばれることもあります。

「今の自分の状態にどれが合っているか」という視点で、医師、臨床工学技士、看護師などの専門家チームと一緒に、最適な治療デザインを考えていくことが大切です。

当院では多職種が連携し、患者様にとって最善の選択をサポートいたします。

よくある質問(FAQ)

Q1. I-HDFとHDFはどう違うのですか?
最大の違いは補液の方法です。HDF(血液ろ過透析)は専用の補液回路を使って大量の補液を持続的に行います。一方、I-HDFは透析装置内蔵の逆濾過機能を使って少量の補液を間欠的(断続的)に行います。専用回路が不要なため、I-HDFは比較的シンプルな設備で実施できます。中大分子の除去という目標は共通ですが、アプローチの仕方が異なります。
Q2. 補液が入るとき、痛みや強い違和感はありますか?
一般的に、痛みを感じることはほとんどないとされています。補液のタイミングでわずかな圧感覚を覚える方もいますが、通常は不快感が強いものではありません。透析装置が自動で行うため、患者さんが特別な操作をする必要もありません。気になる症状がある場合は、臨床工学技士や看護師にすぐにお知らせください。
Q3. 通常の透析と治療時間や費用は変わりますか?
治療時間は通常の血液透析とほぼ同じ(4時間前後)です。費用については、診療報酬の仕組みや保険の適用状況によって異なる場合がありますので、担当のクリニック・病院にお問い合わせください。
Q4. 血圧が下がりやすいのですが、I-HDFで本当に改善しますか?
クロスオーバー試験の結果では、I-HDFは標準HDと比較してIDH(透析低血圧)への処置件数が約18%減少したと報告されています。ただし、個々の患者さんによって効果の現れ方は異なります。「必ず改善する」と断言することはできませんが、血圧が下がりやすい方に適した選択肢の一つと考えられています。まずは担当医にご相談ください。
Q5. どのような機械・設備が必要ですか?
I-HDFには、逆濾過(バックフィルトレーション)機能を搭載した透析装置と、超純粋透析液(ウルトラピュア透析液)を供給できる水処理設備が必要です。HDF専用の補液回路は不要ですが、透析液の水質を高い基準で維持するための設備と管理体制が整っていることが前提となります。
Q6. I-HDFが向いていない場合はありますか?
I-HDFが適さないケースとしては、透析液の水質管理が困難な施設環境や、心機能・循環動態の状態によって間欠的な補液自体が負担になる場合などが挙げられます。また、透析膜の種類や患者さんの血管アクセスの状態によっても判断が変わることがあります。最終的な適応判断は担当医が個別に行います。

まとめ

本記事のまとめとして、間欠的血液ろ過透析(I-HDF)において特に重要なポイントを以下の3点にまとめました。

一人ひとりの体調に合わせて調整することが重要です。当院では、患者様一人ひとりに最適な透析療法の提供を目指しています。現在の治療でつらい症状がある方は、ぜひ一度ご相談ください。

参考文献・出典:
- 間歇補充型血液透析濾過の基礎と臨床 - 日本透析医会
- 臨床工学技士の業務 - 日本臨床工学技士会

最終更新日:2026-05-04

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