診療案内:人工透析

透析患者のフットケアとは?足病変の仕組みと予防法をわかりやすく解説

透析患者のフットケア
この記事の
監修・執筆

櫻林 耐 院長

日本腎臓学会認定 腎臓専門医 / 日本循環器学会認定 循環器専門医

「足先が冷えて痛む」「指の色が少し変かもしれない」といった、日常のちょっとした違和感に不安を感じている方は多いのではないでしょうか。

確かに透析患者の足病変は放置すると深刻化しやすいものですが、正しいセルフケアと医療機関での定期的な評価があれば、いつまでも自分の足で歩き続けることは十分に可能です。

この記事では、透析患者の足に起こる変化のメカニズムから、自宅でできるチェック方法までを専門医がわかりやすく解説します。

  • 透析患者の足病変は、神経障害・石灰化・免疫低下により急速に悪化しやすい
  • 痛みを感じにくいため傷の発見が遅れやすく、放置すると壊疽や足切断のリスクが高まる
  • ABI・SPPなどの定期評価と多職種チームによる予防的ケアで、足を守ることができる

透析患者の足病変が重篤化しやすい理由

透析患者さんの足病変は、腎臓病にともなう全身性の血管障害が複合的に重なることで、一般の方と比べて急速に、かつ深刻に進行しやすい状態です。

透析患者さんの足に起きやすいトラブルの概要を以下に整理します。

要因具体的な病態特徴
糖尿病性神経障害足の感覚が鈍くなる痛みを感じにくいため傷に気づかない
微小血管の虚血毛細血管レベルの血流低下創傷(傷)が治りにくくなる
CKD-MBDによる石灰化血管壁にカルシウムが沈着動脈が硬化し血流が著しく制限される
免疫機能の低下感染への抵抗力が弱まる小さな傷から細菌感染が拡大しやすい

上記の要因は一つひとつ単独で起きるのではなく、同時に進行するのが透析患者さんの足病変の恐ろしいところです。

健常な方であれば自然に治る靴擦れや水ぶくれであっても、透析患者さんでは血流不足や免疫低下により難治性の潰瘍や壊疽につながるリスクがあります。

足病変は何よりも予防が大切ですので、日頃から足の状態をよく観察し、小さな変化に早く気づけるようにしましょう。

血管石灰化と末梢動脈疾患(PAD)の進行メカニズム

透析患者さんの足病変を理解するうえで最も重要なのが、血管石灰化(けっかんせっかいか)と末梢動脈疾患(PAD:Peripheral Arterial Disease)の関係です。

透析患者さんに特有の進行メカニズムとして、以下の二つが挙げられます。

病態特徴
メンケベルグ型動脈硬化
(Mönckeberg型動脈硬化)
  • 動脈の内壁にカルシウムが沈着する石灰化
  • 血管がレントゲンに白く映るほど硬化
  • CKDに伴うリン・カルシウム代謝異常が主な原因
カルシフィラキシス
(Calciphylaxis)
  • 皮膚の小動脈が急激に石灰化
  • 皮膚への血流が途絶えて壊死を引き起こす
  • 黒ずんだ壊死病変として出現

このように、透析患者さんでは血管内皮細胞の機能低下と酸化ストレスの増大が重なり、閉塞性動脈硬化症(ASO)を含むPADが急速に進行します。

血流が詰まりや狭窄によって不十分になるため、早期発見と早期対処が欠かせません。

「痛みのない傷」が壊疽へと進む仕組み

透析患者さんの足病変がとりわけ危険な理由の一つが、「痛みを感じにくい」という神経障害の特性です。

痛みは本来、体へのダメージを知らせる大切な警告(兆候)ですが、この仕組みが機能しなくなることで、以下のようなトラブルが見逃されやすくなります。

これらの小さなトラブルが放置されると、傷は「難治性潰瘍」へと進行します。

さらに細菌感染をきっかけに組織が腐敗・壊死する「壊疽(えそ)」へと発展し、重症化する危険があります。

これらが進行すると、極めて危険な状態に陥ります。

包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)
足の血流が極度に低下し、安静時の痛みや潰瘍・壊疽を伴う状態です。

重症度により1年以内の大切断率が約20〜30%に達するという報告もあり、速やかに専門的な治療が必要です。
「足の指が黒い」「足が腐ったような見た目になっている」と感じたら、すぐに医療機関へご相談ください。

足病変の評価指標となるABIとSPPの読み方

足病変を早期に発見するためには、定期的な評価検査が欠かせません。

透析患者さんに対しては、主に以下の評価指標が用いられています。

評価指標正式名称基準値・異常値透析患者における注意点
ABI足関節上腕血圧比0.9未満でPAD疑い動脈石灰化により1.4を超える偽高値を示すことがあり、正常と誤判断されるリスクがある
SPP皮膚灌流圧40mmHg未満では創傷治癒が困難石灰化の影響を受けにくく、微小循環(毛細血管レベルの血流)の評価として信頼性が高い
視診・触診目と手による観察毎回の観察が推奨「無痛性の傷・白癬・胼胝」が壊疽へのきっかけになる。足背動脈の拍動確認が重要

ABIはPADを簡便にスクリーニングできる検査ですが、透析患者さんの場合は血管の石灰化により「偽高値」が出やすい特性があります。

ABIだけで判断せず、石灰化の影響を受けにくいSPP検査を組み合わせた総合評価が推奨されています。

定期スクリーニングとフットケアの実践

フットケアの目的は、足病変を「治す」ことより「起こさない」ことにあります。

患者さん自身が日常生活で行うセルフケアと、医療機関でのスクリーニングを組み合わせることが不可欠です。

まずは、ご自身でできるセルフケアとして、以下のような点を心がけましょう。

これらのセルフチェックを毎日継続することが、小さな異変の早期発見に繋がります。

ご自身で見えにくい場合は、ご家族に確認してもらいましょう。

さらに、医療機関では以下のスクリーニングを行います。

実施項目内容
視診・触診透析入室のたびに医療スタッフが足の状態を確認する
血流評価定期的なABI・SPP検査で血流を測定する
下肢血管エコー検査石灰化の程度や狭窄部位を画像で確認する
日頃のセルフケアと、クリニックでの専門的な検査を組み合わせることで、もしもの時も早めに対応でき、重症化をしっかりと防ぐことができます。

多職種チームが支える「足を守る」体制

透析患者さんの足を守るためには、一人の医師だけでなく、さまざまな専門職が連携する多職種チーム体制が不可欠です。

医療現場では、それぞれの専門職が連携し、以下のような体制で足のケアにあたっています。

職種役割・対応内容
看護師・入室時に足裏、爪、傷、皮膚温度を毎回視診・触診

・虚血の兆候の早期発見と継続的な観察記録
臨床工学技士(CE)・SPP測定や下肢血管エコーによるPAD早期診断支援

・透析装置管理と血管機能評価の専門的サポート
医師・提携医療機関・重症化の兆候を確認した際の迅速な高度医療連携

・EVTやバイパス手術による早期血行再建・下肢温存
当院では、各専門スタッフがそれぞれの知見を活かし、一丸となって患者様の「一生自分の足で歩く」という願いを支えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 透析をしていると足を切断することになるのですか?
透析患者さんでは足病変(PAD・壊疽)のリスクが高まることは事実ですが、定期的なスクリーニングと早期介入によって切断を防げるケースは少なくありません。「透析=足の切断」ではなく、「適切なケアの継続でリスクを下げられる」とご理解ください。
Q2. 足の指が黒くなっていますが、すぐに受診すべきですか?
はい、速やかに医師または看護師に報告してください。足の指の黒変は、カルシフィラキシスや壊疽の可能性があり、放置すると急速に悪化することがあります。次回の透析まで待たず、すぐに医療機関へご連絡ください。
Q3. 足が冷えてズキズキ痛むのは透析と関係がありますか?
透析患者さんに多い末梢動脈疾患(PAD)の症状の一つとして、足の冷感や安静時の痛みが挙げられます。特に夜間に痛みが強くなる場合は重症虚血が進行している可能性があるため、早めにABIやSPPの検査を受けることをおすすめします。
Q4. 水虫(白癬)は透析患者にとってなぜ危険なのですか?
白癬菌による皮膚のひび割れが、細菌感染の入り口になるためです。透析患者さんでは免疫機能の低下と創傷治癒の遅延が重なるため、感染が深部(骨や腱)に達するリスクがあります。市販薬で自己判断せず、必ず医師にご相談ください。
Q5. ABI検査で「異常なし」と言われましたが、安心してよいですか?
透析患者さんの場合、血管の石灰化によってABIが「偽高値(実際には血流が悪いのに正常を示す)」となることがあります。そのため、SPPや下肢血管エコーなどを組み合わせた評価が重要です。ご不安な場合は担当医にご確認ください。

まとめ

本記事のまとめとして、フットケアにおいて特に重要なポイントを以下の3点にまとめました。

足の黒変・冷感・安静時の痛みなど気になる症状があれば、次の透析まで待たず、速やかに担当医や医療スタッフへご相談ください。

参考文献・出典:
- 日本透析医学会「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」
- 重症化予防のための足病診療ガイドライン(日本フットケア・足病医学会 ほか関連学会)
- 日本臨床工学技士会:臨床工学技士の業務

最終更新日:2026-05-06

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